イ段の発音のお話

イ段の発音の問題とは、次のようなもののことです。
 イ、キ、シ、チ、ニ、ヒ、ミ、リ、ギ、ジ、ビ、ピ、および拗音に現れます。
 特にキ、シ、チ、ニ、リ、ギ、ジは明らかに異常な音色になります。
 またケ、ゲなどのエ段に現れることもあります。
 サ行全体、ザ行全体に現れることもあります。
 舌の硬直と歪みによって起こるもので、正しい息の流れが阻害され、下顎がずれたり唇が左右に歪んだりします。
 キはティ、チなどと聞き間違えられます。
 シはヒと聞き間違えられます。
 チはキと聞き間違えられます。
 ニはギと聞き間違えられます。
 リはギと聞き間違えられます。
 サ行はシャ行、ヒャ行などと聞き間違えられます。
 その他全般にきしみ音とか唾をはじくような音などとも表現されます。
 イ列構音障害、側音化構音などとも言われます。

さて、もう30年以上も前の話です。最初は私の教室の当初の目的(アナウンサー等の発音改善)を半分誤解して尋ねて来られた一般の学生さんでした。
乾燥地の植生を勉強しているという国立大の学生さんでしたが、キの発音ができないというのです。
どうしてこの教室にきてしまったの?などと言いながら、せっかくだからと一応聴かせてもらうと、確かに奇妙な発音です。
口の中を見せてもらってびっくりしました。それまで見てきたたくさん人の舌の使い方とはまったく異なるのです。
何はともあれ、これでは全然いけないでしょう。こういう風にしてみましょうよと、本人には鏡を見てもらいながら指示をしてみると、勘のいい方だったのでしょう、すぐに正しい発音ができるようになりました。
私としては変な経験だけれどもごく普通の対応をしたつもりでした。ところがご本人がびっくりしてしまったらしいのです。これまでいろんなところで診てもらったがこんな風に実際に舌の使い方を習ったのは初めてだし、こんな風にすぐ治るものだとは思ってもみなかった、と言うのです。
このことがあって、しばらく後にこんどはシの発音ができないという人が来ました。 まもなく日本語教師としてインドネシアに赴任する予定という女性でしたが、発音に問題を抱えたまま赴任したくないというのです。
シの発音は口を開けたまま発音はできないので舌の観察は難しいのですが、口の中の息の流れ方には前のキの方のケースと似たものがありました。
舌の形を見ながらの練習はできないので正しい息の出し方から練習して、なんとか赴任までには問題を解消することができたのですが、私としてはこれらはいったい何なのだろうという釈然としないものが残りましたので、そこで本格的にこの問題を調べ始めることにしたのです。
当時はほとんど見るべき文献もなく手探りの状態だったのですが、間単に言えばこの成人の機能性構音障害は教育、医療、福祉、どの分野からも見落とされて放置状態にあるということが分かったのです。 それだけならまだしも、いろんな報告や専門書の記述もこれらの発音の障害は成人になってしまうともう治らないという既成概念に捉われてしまっているのがどうにも不可解でなりませんでした。
その後ためしに一般の方の矯正指導を少し始めてみたところ、予想通り指導は非常に良い成績を収めましたし、最初はぼんやりしていた異常音のメカニズムもはっきりしてきました。 私の教室が元とは違って一般の方を主な対象とするようになったのはこのような経緯からでした。
続く

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